12月3日の一般質問では、大きく4点について取り上げました。
1点目の「すべての原爆被害者の救済」では、被爆者認定の矮小化をあらため、被爆体験者をはじめすべての原爆被害者を被爆者として認めよと求めました。
改めて、質疑を振り返ってみると、長崎市には最高裁判決をたてに被爆地域の拡大をこばむ国の姿勢を改めようとする立場なのか、疑問でなりません。長崎の被爆者認定訴訟での最高裁判決(2017年)で、第3号被爆にあたらないとした部分は、原審の事実認定を是認することを示したもので、最高裁としての法律的判断を示したものではありません。しかも、広島「黒い雨」判決は2021年にだされて、被爆者援護法のもっとも新しい解釈のはずです。その立場で国に被爆者援護法の運用を求めるべきではないでしょうか。
ノーベル平和賞の受賞スピーチで、被団協の田中煕巳代表委員が「原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたいと思います」と強調されましたが、原爆犠牲者に国家補償を拒んでいることも、原爆被害の矮小化にあらわれです。私も質問の最後に、このことを述べましたが、被爆者の声にどう向き合うかが政治に問われていると思います。
以下、質問と答弁のやりとりです。(動画から文字おこししたもので、公式な議事録ではありません。)
(中西) 1すべての原爆被害者の救済について。「被爆者と『同等』とするなら、被爆者と認めればいい」。17年の長きにわたり裁判を闘ってきた「被爆体験者」の怒りの声です。
「被爆者と同等」の医療費を助成する。これは、「被爆体験者」が原爆で被爆者と同じ影響を受けたと認めたことにほかなりません。であるなら、直ちに被爆者と認めるべきです。政府の今回の対応は、救済を求める原爆被害者の声と運動を無視できなかったものであると同時に、これまでの支援事業の矛盾と破綻を示すものです。
その新たな医療費助成事業が今月1日から始まりますが、11種類の障害を伴う疾病に罹患していることが要件とされています。広島では黒い雨に遭い、同様の11疾病があれば被爆者と認められるようになったのに対して、長崎ではかたくなに認めない。これは、11疾病で原爆被害者を分断し、広島と長崎を差別することにほかなりません。
本来、原爆被害者はすべてが救済されるべきであり、長崎市として、国がすべての原爆被害者を被爆者として認めるために、なにをしていくのか、どうやって原爆被害者の分断や差別をおわらせ解決をはかるつもりなのか、お尋ねいたします。
(鈴木市長)日本共産党・中西敦信議員の質問にお答えいたします。1点目の原爆被爆要請についての括弧1 全ての原爆被害者の救済についてお答えいたします。被爆体験者の救済につきましては平成 14年度から被爆体験を原因とする精神疾患及びその合併症について自己負担分の医療費を支給する被爆体験者精神影響等調査研究事業が実施されてきております。
同研究事業開から20年以上が経過し、対象者の平均年齢も85歳を超え様々な疾病を抱えて治癒することなく長期療養を要している状況が伺われていることから、この度、精神疾患の発症要件とせず、幅広い一般的な疾病について被爆者と同等の医療費助成を行う第2種健康診断特例区域治療支援事業が12月1日から開始されました。
この新事業は第2種健康診断受給者証を所持している方のうち、造血機能障害や肝機能障害癌に代表される細胞増殖機能障害を伴う疾病などの11の障害を伴う病気にかかっている方を対象としており、医師の診断書等を提出後、審査を経て医療受給者証の交付を受けた方は遺伝性や先天性などの一部の疾病を除く、ほぼ全ての病気の医療費助成を受けること ができるものでございます。
現時点で第2種健康診断受診者証をお持ちの方全員に11 月18日付けで新事業の内容やお手続き方法等のリーフレットを送付しております。また、本事業の円滑な実施のためには医療機関の協力が大変重要となりますので、国や県と合同で医療機関向けの説明会を開催するなど制度の十分な周知に努めているところでございます。
今回の新たな事業の創設によりまして被爆体験者の救済については医療費助成の点で一歩前進したものと考えております。しかしながら、被爆体験者の皆様から私も直接お話を お聞きしておりますが、高齢化する被爆体験者の救済は一刻の猶予もない中で被爆者の皆様の願いはあくまでも被爆者として認定されることでございます。今後も引き続き、市議会とも一体となって長崎原子爆弾被爆者援護強化対策協議会いわゆる原援協を通じ、爆心地から半径12kmの範囲の被爆地域の拡大を国へ要望するなど1日でも早い被爆体験者の救済に務めてまいります。以上、本段からの答弁といたします。
【再質問】
(中西)全ての原爆被者被害者の救済についてお尋ねします。今回の新たな治療支援事業は元々8月の被爆者や被爆体験者との面談で、岸田前首相が早急に課題を合理的に解決できるよう調整を指示したところが1つのきっかけになっているかと思います。
その結果が答弁にあったようにその長い年月を得て様々な病気を抱え、それが長期間治癒しない、だから医療費全般を助成する。けれども、放射放射線による健康被害と密接な関係があるとされる11失敗をその要件としながら、あくまで放射線の影響は認めないというものです。
この説明の一体どこが合理的なのでしょうか。長期間病気が治らない、それは原爆の被害とりわけ放射線による影響だと考えられる。だから人道的立場で被爆者と認めて被爆体験者を救済するこういう整理だって可能ではないでしょうか。
統一的な見解を求めてなどと国が控訴の判断をしたのは明らかに間違っています。市長は今回の事業を医療費助成の面で一歩前進だと言われています。一面では確かにそうだと思いますが、一方で今回の対応が合理的な解決どころか合理的な説明にさえなっていない。この点について市長は国の説明に対して合理的だと納得されたのかお尋ねをいたします。
(阿波村原爆被爆対策部長)平成14年から開始をされました被爆体験者精神影響等調査研究事業いわゆるPTSD事業でございますが、市長が本壇から申し上げた通り事業から20年以上が経過をしておりまして、対象者の平均年齢も85歳を超える中で治した例が少なく、現在もなお様々な疾病を抱えて長期療養を必要とされている状況等を鑑みて、現在の病気がある被爆体験者の健康不安に寄り添った支援策を国が示したものだという風に考えております。
一方で、第2種健康診断特例区域に該当されるいわゆる被爆体験者の皆様に対しての被爆者健康手帳の交付について争われましたいわゆる被爆体験者訴訟についてでございますが、過去に最高裁まで争われました判決においては被爆地域として指定されていない地域におられる方は身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情な元にあったとは言えない、それから原子爆弾10日後まもなく雨が降ったとする客観的な記録はないとした判決が確定をしているところでございます。
こういった状況もございますが、長崎市としては裁判とは別に被爆体験者の1日でも早い救済に向けて爆進地から半径12km範囲の被爆地域の拡大について市議会と一体となって要望しているところでございます。
(中西)最高裁の判決と言われますけれども、その被爆者援護法の解釈が問題という風に思います。まさに今回新たな治療支援事業の要件になっている11疾病というのは被爆者手帳の所持者が健康管理手当ての支給を申請する際に条件となっている疾病と全く同じです。だから、この11疾病というのは、放射線による健康被害と密接に結びついたものだと国も捉えているはずです。
今回の治療支援事業の対象に11疾病を要件とするとなった時に長崎市は国に対してこの際その放射線による健康被害が第2特例区域にはあると判断すべきだという風に迫ったのかどうかお尋ねをします。
(阿波村原爆被爆対策部長)今回、国が示しました新事業につきましては国が放射線の影響を考慮した判断でよるものではなく、高齢化する被爆体験者の健康不安等に寄り添ったものだと認識をしております。また、第2健康診断特例区域の方は最高裁判決が先ほどご紹介しました通り確定しているわけでございますが、国は被爆者健康手帳は交付はできないという立場でございまして、新たな医療費助成の事業につきましては、より爆進地から近距離にある第一種健康診断特例区域との均衡を図る必要があるということから11疾病に罹患していることが要件とされたものでございます。
(中西)そもそもその8月の面談の時に被爆体験者は被爆者じゃないのかという訴えがあって、岸田前首長の合理的な解決という(指示)があったかという風に思います。そういう点であくまで被爆地域を限定する、そういうことそのものをやっぱり変えていく必要があるという風に思います。今、新しい支援事業が始まったもとで同じ11疾病を要件にして第1種特例区域では被爆者と認め、第2種特例区域では医療費助成のみと差をつける被爆者と被爆体験者、今度の新たな治療事業の対象者の違いは一体どこにあるというのですかお示しください。
(阿波村原爆被爆対策部長)第一種健康診断特例区域につきましては科学的予見に照らせば放射能被爆の健康被害を生じる可能性を肯定することはできないものの健康診断により11種類の障害を伴う疾病に罹患していることが判明した場合には、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるよう事情の元にあったものとして被爆者健康手帳を交付しているものでございます。
一方で、被爆体験者への被爆者健康手帳の交付については先ほど答弁申し上げました通り過去における最高裁の判例におきまして身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情のもにあったとは言えない等の判決が確定しているものでございます。
(中西)だから過去に確定している最高裁判決というのはやはり被爆者援護法の人道的立場での解釈に基づかない判決だからそういうものが出されているという風に思います。その上で先に12月から始まった地域資料地域支援事業の周知についてお尋ねをしたいと思います。対象となる方にはもれなく申請をしていただく、そのための特別の体制を取るということを求めます。そして申請に必要な診断所が自己負担となっているのは問題です。医療機関の 方では診断所代は1万円と定めたとも聞きました。この申請にあたっての診断症題の自己負担なすべきではないでしょうか。
(阿波村原爆被爆対策部長)受付の支援体制につきましては調査課をはじめ各総合事務所に窓口を設け、また対象者の皆様方にもご紹介させていただきました通り直接リーフレットの案内を送るなど務めさせていただきまた。県の医会、市の医会、薬剤師会等を通じて医療機関にも周知を行っているところでございます。
次に、診断料の自己負担を市が助成する考えについて、お答えをさせていただきます。新たな支援事業が開始される前の国との協議の中におきましては、長崎県・市からこの申請にかかる診断所作成費が自己負担となることから助成の対象とならないかとまずは最初に国に対して要望を行ったところでございます。しかし、国からはこの診断書料金につきましては他の申請手続きとの均衡などの理由から申請前の諸手続きに関する費用については助成の対象とすることは難しいとの回答でございました。また、同様な理由で市独自での助成も困難と考えているところでございます。
(中西)本当に冷たいなという風に感じます。やはり全ての原爆被害者を救済する道というのは黒い雨訴訟の広島高裁判決にあると思います。ここで資料の掲示をお願いします。広島でも黒い雨訴訟の第2訴訟がたたかわれている、いわゆる増田雨域の外にある地域があります。爆心地からの距離は30km以上離れています。次の資料の掲示をお願いします。これは長崎原爆による被爆者認定の状況と長崎及び島原半島一体のガンマ線の強度分布そして被爆地域と被爆体験者の地域を示したものです。次の資料をお願いします。これは国立長崎原爆原爆死没者追悼平和祈念館に所蔵された体験記の調査結果の資料で、飛散物に関する記述があった分布です。先ほどの資料で放射線が島原半島まで高い数字が確認されていたのと同様に、島原半島での飛散物を体験した記録が確認されています。
2021年の「黒い雨」訴訟広島高裁判決で3号被爆者の救済対象が広がり、被爆者援護法1条3号でいう身体に原子爆弾の放射線の放射能の影響を受けるような事情にあったものというのは、原爆により空気中に大留する放射線微粒子を吸引したり、地上に到達した放射性微粒子が購入した飲料水井水を飲んだり、放射性微粒子が付着した野菜を採取したりして 放射性微粒子を体内に取り組むことで内部被爆による被害を受ける可能性があるものと示されました。
この3号というのは長い間、原爆の被害にあった人の看護や救護などに従事したことにより身体に放射線の影響を受けた人との認識が一般的でしたが、それを変えたのが2007年の長崎の被爆体験者訴訟です。そこで3号被爆の解釈はもっと広いと訴えたことが広島高裁判決の援護法の解釈にもつがっていきました。広島高裁判決に基づいて被爆者援護法の3号被爆者を解釈すれば被爆者の定義に11疾病の要件もなければ地域の指定もありません。病気を発症していなくても被爆者と認めるとしています。
今回の長崎地裁判決に対して手帳交付が認められた3 地区以外の方から「放射線が行政区で違うのはおかしい。当時は山から水を引いて生活に使っていた。行政区に沿って放射線の被害が出るなんてありえない。全く科学的ではない」と声が上がるのは当然だと思います。
いよいよこの広島高裁判決の援護法解釈の立場に立って国に対して全ての原爆被害者の救済を求めるべきだと思いますが、市の見解を求めます。
(阿波村原爆被爆対策部長)今、議員の方からご紹介がありました広島交際判決 2021年7月に判決が出ておりますが、それを受けまして国の方においては、その4月に被爆者認定指針の改定が行われております。この改定では広島で黒い雨にあった方が原子爆弾の放射能を受けるような事情の元にあったとして手帳の交付を認める判決が出たことを踏まえてのものでございます。広島高裁での事実認定とその判決を受けて出された総理談話に基づいて原告84人と同じような事情のもとにあったとして被爆者認定をする要件を設定したものでございます。また、あの黒い雨訴訟に今内部被爆のご紹介もがございました。黒い雨等における健康被害については放射性微粒を含む黒い雨を直接浴びることによる外部被爆に加え黒い雨が混入したとされる井戸水や植物を搾取摂取したことによる内部被爆が想定できるとして被爆者と認められたものでございます。
一方、長崎についてでございますが、広島と同様の争点につきまして、平成29年、令和元年の最高裁判決におきまして被爆地域と指定されていない地域にいる方は身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情のもとにあったとは言えないという判決が確定をされており、また、これに伴う雨が降ったとする客観的な資料がないとされているところでございます。
こういった長崎と広島での差があるところではございますが、長崎市といたしましては、広島との間で援護施策に差があってはいけないという風に考えておりますので、この訴訟の行為とは別に今後とも国に対しては長崎県とも連携の上、半径12kmの被爆地域の拡大や広島と同様の新基準を求めて、引き続き、議会と一体となって要望を続けさせていただきたいと考えております。
(中西)本当にどれだけ多くの原爆被害のあった方がこの国が決めた線引きのために被爆者として認められずに悔しい思いをしながら亡くなられたのかと思うと、原爆の被害を矮小化し続ける国の姿勢に強い憤りを禁じえません。被爆地域を当時の行政区に限定し80年基本懇答申をたてにその外の地域はあくまで被爆地域ではないとする国の考えは根本的に転換されるべきです。原爆被害者に残された時間はわずかです。だからこそ広島高裁判決は、国の責任で戦争被害を救済する趣旨の被爆者援護法を生かし、人道的立場から広く救済を求めています。長崎市はこの立場で国に働きかけるべきだと私は思います。
こうした国の態度の根底には国家補償を拒み、核兵器の被害を矮小化したいという姿勢があると言わなければなりません。唯一の戦争被爆国でありながら核抑止力を唱え米国の核の傘を頼む上で核の惨禍を訴えるのは不都合だからです。ノーベル平和賞に日本被団協が選ばれましたが、これを力に核兵器廃絶を求める世論をさらに広げるとともに原爆被害を直視する政治への転換を強く訴えて、次の質問に移りたいと思います。
コメント